最高裁、不貞相手への離婚慰謝料請求を原則否定

最高裁は、2019年2月19日、不貞相手への離婚慰謝料請求を否定するという判決を下しました。

判決原文はこちらです(「平成31年2月19日大三小法廷判決」最高裁ホームページ)。

結論としては、
夫婦の一方は、他方と不倫(不貞行為)をした第三者に対して、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情のない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできない
というもので、最高裁は、離婚慰謝料を認めた原審判決を取り消して差し戻しました。

事案は、公開されている判決書から読み取れる範囲の事情ですが、次のとおりです。
平成6年に結婚し、その1年後、2年後に子どもが出生。
約15年後に妻が不貞行為に及び、1年後に発覚。そのころ不貞関係も解消。
その約5年後に長子が大学進学したのを契機に妻が別居し、その後離婚。

離婚訴訟を扱っている弁護士としては、上記事情を見る限り、結論としてはそれほど驚くものでもないと思います。不貞の解消から5年経過して、その後妻の別居により離婚しているため、離婚と不貞行為との間に相当因果関係がない(すなわち、不貞行為がなければ離婚がなかったという原因と結果の関係が不貞解消から5年の年月の経過により切断されている)とも考えられるからです。

本判決で注目すべきなのは、上のような相当因果関係の論理で切るのではなく、特段の事情のない限り、原則として、不貞相手に対しては原則として離婚慰謝料請求をすることができないとしたことです。したがって、今後は、今回のように、不貞から離婚までにある程度の年月を経過した(したがって、その間に一度許していることが推認される)事案のみならず、不貞が離婚の直接の原因となった事案であっても、不貞相手に上記特段の事情にあたるような干渉行為のない限り、離婚慰謝料を請求するのが難しくなります。

ちなみに、今回の判決は、「小法廷判決」(最高裁判事5人による判決)であって、「大法廷判決」(最高裁判事15人全員による判決)ではありませんので、従前の判例を変更するものではありません。

誤解してほしくないのですが、不貞相手に対する不貞行為に基づく慰謝料請求については、従前通り請求できます。これは、通常の不法行為の範疇なので、最後の不貞行為から3年で時効となります(不法行為の時効期間は、2020年4月から施行された改正債権法のもとでも3年で変わりません(新民法724条1号)。)。今回の事案では、不倫関係解消から3年以上経過しているため離婚慰謝料として請求したのかもしれませんが、今後はこの道が原則として閉ざされたということになります。

なお、不貞相手に対する慰謝料請求というのは、世界的に見ると、一般的な制度ではありません。私は、不貞慰謝料請求は当然だと思っていたので、留学中に同級生と話していて驚いたことがあります。少なくとも、(米国の一部の州では認められていますが)英国などの英米法系の国では、不貞行為はあくまで夫婦の問題であって、第三者に対して請求していくものではない、という考えのもと、慰謝料請求は認められていないようです。家族観の変容に伴って、今後その方向にシフトしていくかもしれません。そのときこそ、大法廷判決が出されることになるでしょう。

ご参考になりましたら幸いです。

(2019年2月にarimoto-law.comで投稿した記事を修正・移行したものです)