フィッシング詐欺のメールやSMSは、年々巧妙になっています。
高齢のご家族がインターネットやオンラインショッピングを利用している場合、「怪しいメールには気をつけて」「知らないリンクはクリックしないで」と注意している方も多いのではないでしょうか。
しかし、実際には、本人の注意力だけに頼ってフィッシング詐欺などのネット詐欺を防ぐことには限界があります。 特に高齢のご家族については、「詐欺を見分けてもらう」ことよりも、詐欺に遭いにくい環境をあらかじめ作っておくことが重要です。
1 「怪しいメールを開かない」だけでは難しい
フィッシングメールというと、以前は、不自然な日本語が使われていたり、見るからに怪しい送信元から送られてきたりするものも少なくありませんでした。
しかし、現在では、金融機関、クレジットカード会社、通販サイト、宅配業者、携帯電話会社などを装い、本物と見分けにくいメールやSMSも多数送られています。
そのような状況で、
「怪しいメールを開かない」
「本物かどうか確認する」
と高齢のご家族に伝えても、そもそも何をもって「怪しい」と判断するのかが難しい場合があります。 そこで、「本物か偽物かを判断する」ことをできるだけ要求しない仕組みにすることをお勧めします。
2 メールやSMSから支払いをしない
まず決めておきたいのが、
「メールやSMSに記載されたリンクから、クレジットカード番号やパスワードを入力しない」
という単純なルールです。
たとえば、通販サイトから「支払い方法を変更してください」というメールが届いた場合でも、メールのリンクから手続をするのではなく、普段利用している公式アプリや、あらかじめ登録した公式サイトから確認します。
重要なのは、メールが本物かどうかをその場で判断しようとしないことです。 本物のメールであったとしても、メールから手続をしない、と決めてしまえば、判断する場面を一つ減らすことができます。
3 迷惑メールを「見分ける」のではなく、届きにくくする
迷惑メールが大量に届いている場合には、本人に一通ずつ判断してもらうよりも、携帯電話会社やメールサービスの迷惑メール対策を利用し、そもそも受信箱に届くメールを減らす方が効果的です。
必要に応じて、
- 迷惑メールフィルターを強くする
- なりすましメールの拒否設定をする
- 必要な送信元を受信リストに登録する
などの設定を確認するのも有効かと思います。
メールアドレスを変更することも一つの方法ですが、長年使用しているメールアドレスの場合、金融機関や各種サービスへの登録変更が必要となり、かえって大きな負担となることがあります。 まずは現在のメールアドレスのまま、受信環境を整理することも考えられます。
4 クレジットカードの利用環境も見直す
高齢になってクレジットカードを利用すること自体が問題というわけではありません。
もっとも、カードを何枚も保有していたり、利用状況を本人が十分把握できなくなっていたりする場合には、利用方法を見直すことも考えた方がよいでしょう。
特に、フィッシング詐欺対策としては、オンラインショッピングに使用するクレジットカードを一枚に限定し、そのカードの利用限度額を必要最小限に設定しておくことは、有効な対策の一つです。
フィッシング詐欺では、本人が詐欺だと気づかずにクレジットカード情報を入力してしまうことがあります。「絶対に入力しないように」と注意することはもちろん必要ですが、どれだけ注意していても、判断を誤る可能性をゼロにすることはできません。
そこで、仮にカード情報が流出してしまったとしても、被害が大きくならないよう、あらかじめ仕組みを作っておくという考え方です。
そのほか、
- カード利用時の通知を設定する
- 利用明細を定期的に確認する
といった方法も考えられます。 本人の利便性をすべて奪ってしまうのではなく、「間違えないこと」を求めるだけではなく、「間違えても大きな被害にならないこと」まで考えておくことが重要です。
5 「インターネットを使わせない」ことも現実的ではない
高齢のご家族について心配になると、「もうオンラインショッピングをしない方がいい」「インターネットを使わせない方が安全なのではないか」と考えることもあります。
確かに、インターネットを利用しなければ避けられるリスクはあります。
一方で、現在では買い物、銀行、行政サービス、各種予約など、生活のさまざまな場面でインターネットが利用されています。本人が便利さを感じて利用している場合、家族が一方的に禁止しても、実際には使い続けることもあります。
また、家族がすべてのメールや買い物を確認するという方法も、現実には長期間続けることは容易ではありません。
「少しでも怪しいと思ったメールが来たら、何もしないで家族に連絡する」と決めておくことは、一つの対策として有効です。しかし、これだけに頼ることにも限界があります。
最初のうちは確認していたとしても、次第に「毎回聞くのは面倒だ」と感じるようになったり、「こんなことで連絡するのは悪い」と家族に遠慮したりして、自分で判断するようになることがあります。そもそも、本人が本物のメールだと思い込んでいれば、「怪しいメールが来た」と認識せず、家族に相談するという発想自体が生じません。
家族の側にとっても、日常的に送られてくるメールやオンラインでの買い物を一つ一つ確認することは相当な負担です。忙しいときに「それは大丈夫だと思う」「また後で見ておく」といった対応が重なれば、高齢者の側も次第に相談することを遠慮するようになるかもしれません。
したがって、「分からなければ家族に聞く」というルールは大切ですが、それを安全対策の中心にするのではなく、家族に確認しなくても危険な場面に遭遇しにくく、仮に判断を誤っても被害が大きくなりにくい環境を作っておくことが重要です。
そのため、
「本人にすべて正しく判断してもらう」
でもなく、
「家族がすべて管理する」
でもなく、
本人が判断しなければならない場面そのものを減らす という考え方が現実的ではないかと思います。
6 家族で一度、デジタル環境を確認してみる
- どのメールアドレスを使用しているか
- どのクレジットカードを使用しているか
- どの通販サイトを日常的に利用しているか
- どの銀行・証券会社のオンラインサービスを利用しているか
- どのような継続課金やサブスクリプションがあるか
を高齢のご家族と一緒に確認してみることをお勧めします。
これはフィッシング詐欺への対策だけではありません。 高齢になるにつれてクレジットカード、銀行・証券口座、電子マネー、オンラインサービスなどを整理していくことは、本人の財産管理を容易にするとともに、将来亡くなった際に家族等が行う手続を減らすことにもつながります。
まとめ――「注意」よりも「仕組み」で守る
フィッシング詐欺への対策というと、「騙されないように注意する」ことに目が向きがちです。
しかし、高齢のご家族については、本人が毎回正しく詐欺を見分けることを期待するだけでは十分ではありません。
メールから支払いをしない、迷惑メールが届きにくい設定にする、決済手段を整理する、利用通知を設定するなど、判断を誤っても被害につながりにくい環境を作ることが重要です。
また、高齢期に金融サービスやオンラインサービスを整理することは、詐欺被害の防止だけでなく、将来の財産管理や相続、死後の手続という観点からも意味があります。 クレジットカードやオンラインサービスを含めた「デジタル終活」についても、元気なうちから少しずつ考えておくとよいでしょう。