重要経済安保情報の保護及び活用に関する法案と特定秘密保護法との比較

セキュリティクリアランスの拡充を定める「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」案が公表されました。同法案が成立すれば、日本のセキュリティクリアランスは、特定秘密保護法によるものと、重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律(以下「新法」ともいう)によるものの二本建てとなります。そこで、同法案と特定秘密保護法と比較してみました。結果は以下の通りです(赤字が重要な相違点です)。

ご覧になって分かる通り、大枠は同じです。セキュリティクリアランスの統一的運用から考えると、そうであるべきでしょう。特に、指定の有効期間・解除、適性評価の実施における評価基準がほとんど同じであることは特筆すべきことです。

対して、重要な相違点としては以下の通りです。
・安全保障の概念が新法の方が広い、かつ、重要経済安保情報の指定が「安全保障に支障を与えるおそれ」(「安全保障に著しい支障を与えるおそれ」ではない)となっていることから、当該情報の指定及びセキュリティクリアランスが付与される範囲が特定秘密保護法の場合よりも広範となる。
・民間に対して重要経済安保情報が提供される場合の目的及び事業者の範囲がより具体的に定められている。
・重要経済安保情報にかかる適性評価では、内閣総理大臣による適性評価調査が行われる(特定秘密では行政機関の長が実施)。
・新法においては国会への年次報告はない。
・罰則は、重いもので、特定秘密保護法は10年/1000万円以下であるのに対して、新法では5年/500万円以下となっているが、新法では両罰規定が明記。

最も注目すべき点は新法10条2項だと思っています。ここでは、国が関与する調査研究において生成されうる情報についても、まだ存在しない時点であらかじめその情報を重要経済安保情報と指定しうると明示しています。

以下、ご参考になりましたら幸いです。

重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律 特定秘密保護法
1条(目的)
「この法律は、国際情勢の複雑化、社会経済構造の変化等に伴い、経済活動に関して行われる国家及び国民の安全を害する行為を未然に防止する重要性が増大している中で、重要経済基盤に関する情報であって我が国の安全保障(外部からの侵略等の脅威に対して国家及び国民の安全を保障することをいう。以下同じ。)を確保するために特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要であることに鑑み、当該情報の保護及び活用に関し、重要経済安保情報の指定、我が国の安全保障の確保に資する活動を行う事業者への重要経済安保情報の提供、重要経済安保情報の取扱者の制限その他の必要な事項を定めることにより、その漏えいの防止を図り、もって我が国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。」
1条(目的)
「この法律は、国際情勢の複雑化に伴い我が国及び国民の安全の確保に係る情報の重要性が増大するとともに、デジタル社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される中で、我が国の安全保障(国の存立に関わる外部からの侵略等に対して国家及び国民の安全を保障することをいう。以下同じ。)に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要であることに鑑み、当該情報の保護に関し、特定秘密の指定及び取扱者の制限その他の必要な事項を定めることにより、その漏えいの防止を図り、もって我が国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。」
2条(定義)
3項:「重要経済基盤」とは、我が国の国民生活又は経済活動の基盤となる公共的な役務であってその安定的な提供に支障が生じた場合に我が国及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるものの提供体制並びに国民の生存に必要不可欠な又は広く我が国の国民生活若しくは経済活動が依拠し、 若しくは依拠することが見込まれる重要な物資(プログラムを含む。)の供給網をいう。
4項:「重要経済基盤保護情報」とは、重要経済基盤に関する情報であって次に掲げる事項に関するもの
① 外部から行われる行為から重要経済基盤を保護するための措置又はこれに関する計画若しくは研究
② 重要経済基盤の脆弱性、重要経済基盤に関する革新的な技術その他の重要経済基盤に関する重要な情報であって安全保障に関するもの
③ 第一号の措置に関し収集した外国(本邦の域外にある国又は地域をいう。以下同じ。)の政府又は国際機関からの情報
④ 前二号に掲げる情報の収集整理又はその能力
2条(定義)
3条(重要経済安保情報の指定)
「行政機関の長は、当該行政機関の所掌事務に係る重要経済基盤保護情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの(特別防衛秘密及び特定秘密を除く。)を重要経済安保情報として指定するものとする。」
3条(特定秘密の指定)
「行政機関の長は、当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるものを特定秘密として指定するものとする。」
4条(指定の有効期間及び解除)
指定は5年以内、5年ごとに延長可。最長30年まで。特別の事情がある場合は60年まで。60年を超えて非公開にできる情報は以下の通り。
・現に行われている外国の政府又は国際機関との交渉に不利益を及ぼすおそれのある情報
・情報収集活動の手法又は能力に関する情報
・人的情報源に関する情報
・外国の政府又は国際機関から六十年を超えて指定を行うことを条件に提供された情報
・前各号に掲げる情報に準ずるもので政令で定める重要な情報
4条(指定の有効期間及び解除)
期間については左記と同じ。60年を超えて非公開にできる情報は以下の通り。
武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物(船舶を含む。別表第一号において同じ。)
・現に行われている外国(本邦の域外にある国又は地域をいう。以下同じ。)の政府又は国際機関との交渉に不利益を及ぼすおそれのある情報
・情報収集活動の手法又は能力
・人的情報源に関する情報
暗号
・外国の政府又は国際機関から六十年を超えて指定を行うことを条件に提供された情報
・前各号に掲げる事項に関する情報に準ずるもので政令で定める重要な情報
5条(重要経済安保情報の保護措置)
1項:保護措置の内容は政令で定める
5条(特定秘密の保護措置)
1項:保護措置の内容は政令で定める
4項:適合事業者(「物件の製造又は役務の提供を業とする者で、特定秘密の保護のために必要な施設設備を設置していることその他政令で定める基準に適合するもの」)による特定秘密の保有
5項:適合事業者との契約内容(従業者の範囲、その他政令で定める事項)
6条(他の行政機関に対する重要経済安保情報の提供) 6条(我が国の安全保障上の必要による特定秘密の提供)
7条(都道府県警察に対する重要経済安保情報の提供等) 7条
警察庁から都道府県警察への提供
8条(外国の政府等に対する重要経済安保情報の提供) 9条
外国の政府等への提供
9条(その他公益上の必要による重要経済安保情報の提供) 10条(その他公益上の必要による特定秘密の提供)
10条(適合事業者に対する重要経済安保情報の提供等)
1項:「重要経済安保情報を保有する行政機関の長は、重要経済基盤の脆弱性の解消、重要経済基盤の脆弱性及び重要経済基盤に関する革新的な技術に関する調査及び研究の促進、重要経済基盤保護情報を保護するための措置の強化その他の我が国の安全保障の確保に資する活動の促進を図るために、当該脆弱性の解消を図る必要がある事業者又は当該脆弱性の解消に資する活動を行う事業者、当該調査若しくは研究を行う事業者又は当該調査若しくは研究に資する活動を行う事業者、重要経済基盤保護情報を保有する事業者又は重要経済基盤保護情報の保護に資する活動を行う事業者その他の我が国の安全保障の確保に資する活動を行う事業者であって重要経済安保情報の保護のために必要な施設設備を設置していることその他政令で定める基準に適合するもの(「適合事業者」)に当該重要経済安保情報を利用させる必要があると認めたときは、当該適合事業者との契約に基づき、当該適合事業者に当該重要経済安保情報を提供することができる。ただし、当該重要経済安保情報を保有する行政機関以外の行政機関の長が当該重要経済安保情報について指定をしているときは、当該指定をしている行政機関の長の同意を得なければならない。」
2項:「行政機関の長は、当該行政機関の長が保有していない情報であって、当該行政機関の長がその同意を得て適合事業者に行わせる調査又は研究その他の活動により当該適合事業者が保有することが見込まれるものについて指定をした場合において、前項本文に規定する目的のために当該情報を当該適合事業者に利用 させる必要があると認めたときは、当該適合事業者に対し、当該情報について指定をした旨を通知するも のとする。この場合において、当該行政機関の長は、当該適合事業者との契約に基づき、当該指定に係る情報を、当該適合事業者に重要経済安保情報として保有させることができる。」
3項:適合事業者との契約内容(従業者の範囲、管理者の指名、必要な施設設備の設置に関する事項、保護に関する教育に関する事項、その他政令で定める事項)
8条
「特定秘密を保有する行政機関の長は、その所掌事務のうち別表に掲げる事項に係るものを遂行するために、適合事業者に当該特定秘密を利用させる特段の必要があると認めたときは、当該適合事業者との契約に基づき、当該適合事業者に当該特定秘密を提供することができる。ただし、当該特定秘密を保有する行政機関以外の行政機関の長が当該特定秘密について指定をしているとき(当該特定秘密が、第六条第一項の規定により当該保有する行政機関の長から提供されたものである場合を除く。)は、当該指定をしている行政機関の長の同意を得なければならない。」
第5章 重要経済安保情報の取扱者の制限
11条
適性評価(の通知があった日から10年の者)において重要経済安保情報の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないと認められた者でなければ行ってはならない。
特定秘密直近適性評価から5年の者
第4章 特定秘密の取扱者の制限
11条
適性評価(の通知があった日から5年の者)において特定秘密の取扱いの業務を行った場合にこれを漏らすおそれがないと認められた者でなければ、行ってはならない。
12条(行政機関の長による適正評価の実施)
2項:
1. 重要経済基盤毀損活動(重要経済基盤に関する公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安 全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動その他の活動であって、外国の利益を図 のあるもの並びに重要経済基盤に る目的で行われ、かつ、重要経済基盤に関して我が国及び国民の安全を著しく害し、又は害するおそれ 支障を生じさせるための活動であって、政治上その他の主義主張に基 づき、国家若しくは他人を当該主義主張に従わせ、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で行われ るものをいう。)との関係に関する事項(評価対象者の家族(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事 実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この号において同じ。)、父母、子及び兄弟姉妹並びにこれらの者以外の配偶者の父母及び子をいう。以下この号において同じ。)及び同居人(家族を除く。)の氏名、生年月日、国籍( にこれらの者以外の配偶者の父母及び子をいう。以下この号において同じ。)及び同居人(家族を除く。)の氏名、生年月日、国籍(過去に有していた国籍を含む。)及び住所を含む。)
2. 犯罪及び懲戒の経歴に関する事項
3. 情報の取扱いにかかる非違の経歴に関する事項
4. 薬物の濫用及び影響に関する事項
5. 精神疾患に関する事項
6. 飲酒についての節度に関する事項
7. 信用状態その他の経済的な状況に関する事項
4項:内閣総理大臣による適性評価調査
5項:内閣総理大臣による調査意見の通知
12条(行政機関の長による適正評価の実施)
2項:
1. 特定有害活動(公になっていない情報のうちその漏えいが我が国の安全保障に支障を与えるおそれがあるものを取得するための活動、核兵器、軍用の化学製剤若しくは細菌製剤若しくはこれらの散布のための装置若しくはこれらを運搬することができるロケット若しくは無人航空機又はこれらの開発、製造、使用若しくは貯蔵のために用いられるおそれが特に大きいと認められる物を輸出し、又は輸入するための活動その他の活動であって、外国の利益を図る目的で行われ、かつ、我が国及び国民の安全を著しく害し、又は害するおそれのあるものをいう。別表第三号において同じ。)及びテロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう。同表第四号において同じ。)との関係に関する事項(評価対象者の家族(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下この号において同じ。)、父母、子及び兄弟姉妹並びにこれらの者以外の配偶者の父母及び子をいう。以下この号において同じ。)及び同居人(家族を除く。)の氏名、生年月日、国籍(過去に有していた国籍を含む。)及び住所を含む。)
2. 犯罪及び懲戒の経歴に関する事項
3. 情報の取扱いにかかる非違の経歴に関する事項
4. 薬物の濫用及び影響に関する事項
5. 精神疾患に関する事項
6. 飲酒についての節度に関する事項
7. 信用状態その他の経済的な状況に関する事項
13条(適性評価の結果等の通知) 13条(適性評価の結果等の通知)
15条(警察本部長による適性評価の実施等) 15条(警察本部長による適性評価の実施等)
16条(適性評価に関する個人情報の利用及び提供の制限)
目的外利用の禁止
16条(適性評価に関する個人情報の利用及び提供の制限)
目的外利用の禁止
17条(権限又は事務の委任) 17条(権限又は事務の委任)
18条(重要経済安保情報の指定等の運用基準等)
1項:指定・解除、適性評価の実施、適合事業者の認定についての基準の作成
3項:内閣総理大臣は、必要があると認めるとき、行政機関の長に対して説明等を求める等する
18条(特定秘密の指定等の運用基準等)
1項:特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施についての基準の作成
3項:内閣総理大臣は、毎年、有識者に実施の状況等を報告し、その意見を聴取しなければならない。
19条(国会への報告等)
政府は、毎年、前条第三項の意見を付して、特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の状況について国会に報告するとともに、公表する。
19条(関係行政機関の協力) 20条(関係行政機関の協力)
20条(政令への委任) 21条(政令への委任)
21条(この法律の解釈適用)
取材行為は正当業務行為
22条(この法律の解釈適用)
取材行為は正当業務行為
22条~27条(罰則)
・取扱者(従事後含む。)による漏えい:5年/500万円以下
(過失は1年/30万円以下)(共謀規定・未遂犯処罰あり)
・提示された者による漏えい:3年/300万円以下
(過失は6月/20万円以下)(共謀規定・未遂犯処罰あり)
・外国の利益若しくは自己の不正の利益を図り、又は我が国の安全若しくは国民の生命若しくは身体を害すべき用途に供する目的で不正な手段で取得:5年/500万円以下(未遂犯処罰あり)
・国外犯処罰あり
法人等に対する両罰規定あり
23条~27条(罰則)
・取扱者(従事後含む)による漏えい:10年/1000万円以下
(過失は2年/50万円以下)(共謀規定・未遂犯処罰あり)
・知得した者による漏えい:5年/500万円以下
(過失は1年/30万円以下)(共謀規定・未遂犯処罰あり)
・外国の利益若しくは自己の不正の利益を図り、又は我が国の安全若しくは国民の生命若しくは身体を害すべき用途に供する目的で、不正な手段で取得:10年/1000万円以下(未遂犯処罰あり)
・国外犯規定あり