オンラインでの誹謗中傷といった意味での「オンラインハラスメント」という言葉は以前からありましたが、最近テレワークによる新しいオンラインハラスメントが生じてきている、という話を聞きました。
最近のオンラインハラスメントの事例
その中で、法律家としてかなり問題があるな、と思われる事象について、少し分析してみました。
- 在宅ワーク中の異性の上司が在宅ワーク中の部下に2人きりでのオンライン会議を必要以上に何度も行おうとする。
- 上司が、在宅ワーク中の部下に対して、業務時間は常時オンラインでつながっているようにと指示をする。
- 家にWiFi環境が整っていない従業員に対して、「それ自体無能だ」などと言ったり、WiFi環境がないことを理由に会議に出席する機会を奪ったりする。
- 背景画像がうまく機能しない従業員に対して、自宅の様子について不適切なコメントをする。
まだまだ他にも問題のある事例があると思いますが、ここでは、とりあえず上の4つについて見ていきます。
結論から言うと、1~4はすべて、上司が行った場合は、パワハラの問題になりうる状況です。さらに、1については、性的な言動があれば、セクハラの問題もプラスされます。
パワハラ一般について
職場におけるパワーハラスメントは、すでに裁判例もありますが、厚労省が出している指針(こちら)によると、
職場において行われる
① 優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるものであり、
①から③までの要素を全て満たすものをいう、とされています。
ここで、「職場」の意味ですが、会社以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に 含まれる、とされており、在宅でテレワークをしている場合は、その在宅の空間ももちろん職場に含まれます。
「優越的な関係を背景とした」言動には、典型的には、
・職務上の地位が上位の者による言動
があたりますが、
・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
もあたるとされており、同僚や部下による嫌がらせであっても、パワハラにあたりえます。
上の指針によると、パワハラには以下の類型と該当例があるとされます。
類型 | 該当例 | |
A | 身体的な攻撃 | ① 殴打、足蹴り ② 相手に物を投げつける |
B | 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言) | ① 人格否定の言動 ② 業務の遂行に関して必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う ③ 他の労働者の面前において大声での威圧的な叱責を繰り返し行う ④ 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メールを相手を含む複数の労働者宛に送信 |
C | 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視) | ① 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする ② 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる |
D | 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害) | ① 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること ② 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課 し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること ③ 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること |
E | 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと) | ① 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。 ② 気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。 |
F | 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること) | ① 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。 ② 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者 の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。 |
オンラインハラスメントはパワハラにあたるか
上の事例1~4に戻ると、
1の不必要なオンライン会議を二人きりでしたがる上司については、不必要に会議を開催して在宅というプライベート空間に踏み込んでくるという点でF、不必要な業務を強制しているという点でDにあたる可能性があります。
2の不必要な監視の事例については、たとえ職務中とはいえ個の侵害(F)の程度が強いといえればFにあたります。
3のWiFi環境が整っていない従業員に対する嫌がらせは、「無能だ」という言動は侮辱(B)ですし、会議からはずす、という点では、CやEが該当しうる、といえます。
4の自宅の様子についてのコメントは、侮辱(B)やプライベート空間の侵害(F)にあたりうる、といった感じでしょう。
すべて「可能性がある」という表現をしましたが、こうした行為単体だけで見ると、グレーゾーンであって、すぐにパワハラにあたるというのは難しい場合もあります。ただ、繰り返された場合や、別の言動が加わってくればパワハラとして不法行為になることは十分にありえます。
また、同僚や部下によるものであって、「優越的な関係を背景とした言動」(上のパラハラの要件①)にあたらない、という場合であっても、場合によっては、攻撃した同僚や部下について各自、不法行為が成立する、ということも十分に考えられます。
いずれにしても、テレワークに伴う嫌がらせ行為として、形態は新しいですが、考え方の枠組みは、旧来型と変わりませんね。
事業者が注意すべき点
注意すべきは、在宅でのオンラインワークは、自宅という普段は職場の人には見せることのないプライベートな空間を強制的に職場に対して開かせる、ある意味、職場にプライベート空間を「浸食される」という環境で行われるものだ、ということです。特に、在宅ワークを好きでしているという場合ではなく、現在のように在宅ワークが強制されている、という場合においては、それが強くあてはまります。したがって、言動を受ける側は、職場の場合よりもセンシティブで、心理的負担が大きくなりやすい、ということがいえます。したがって、事業者としては、この点に注意して、在宅を含めた職場環境に配慮すべき義務が生じます。
上の事例で見ると、事業者は以下の点に注意してルール作りをしておく必要があるでしょう。
1の不必要なオンライン会議を二人きりでしたがる上司については、オンライン会議はメール等で代替できることも多いでしょうし、会議を開催する場合であっても、誰と誰の間で何時に行われたということをどこかの部門で管理し、二人きりでの会議はなるべく避けるようにするべきです。
2の監視事例については、社内であっても常に上司が部下を監視できているわけではないこと、部下が業務を行っているかどうかは業務報告書の作成などで把握できること、常時画像つきでオンラインでつながらせることは明らかに過剰で必要性がなくプライバシー侵害の程度が強いことから、こうした監視はすべきではありません。
3のWiFi環境については、整備していないのは従業員の責任ではなく、会社側の責任であるため、業務でその環境が必要であって、コロナ禍のように強制的に在宅になったような場合は、従業員に助成をするなど会社側で環境整備をすべく努力すべきです。
4については、在宅であることに配慮してプライベートに踏み込むような発言をしないよう従業員に徹底するとともに、オンライン会議においては画像付きで行うかどうかは、よほどの理由のない限り参加者の選択に任せる、という方法もあるはずです。
オンラインハラスメントに悩んでいる場合
こうしたことに悩んでいる場合は、大企業であれば、ハラスメントに関するホットラインがあるはずですので、そこに相談するとよいです。企業側も新しい状況ですので、対応が追いついていないということがあると思います。あなたの相談が企業を啓もうすることにもつながります。大企業としては、今のコロナ禍であっても、そうしたホットラインを停止してしまう、ということのないようにしておくことが重要です。
他方、中小企業では、そうしたハラスメントの相談室はまだ整備されていないことが多いと思います(もっとも、今後2年以内に中小企業にとってもパワハラ対策をとることが義務となりますので、お忘れなく)。その場合、加入している労働組合に相談することもできますし、役所(こちら)に相談することも可能です。
最後に
少し余談ですが、現状が維持されれば、6月明けには緊急事態宣言も解除されることになり、在宅ワークも一部解除されることにもなるでしょう。従業員は、在宅ワークによって、緊張感がなくなっていたり、精神的に参っていたりして、速やかに従前と同様に働くことができない状態になっている場合もあります。こうした従業員のメンタルコントロールについても、労務管理の一環として企業は配慮してほしいと思います。
以上、皆様のご参考になりましたら幸いです。