【一般民事】民事訴訟で新しく導入される住所等の秘匿制度

制度の概要

 

2022年の民事訴訟法改正で、一定の事情(社会生活を営むのに支障を生ずるおそれ)があることの疎明がある場合は、当事者の住所、氏名等を相手方当事者に秘匿できるという制度が導入されることとなりました(改正法133条、2023年2月までに施行予定)。

 

閲覧制限と秘匿の違い

 

従来から「訴訟記録の閲覧制限」という制度はありますが(92条)、それは訴訟の当事者でない第三者が記録を見ることが制限されるか、という問題です。

 

対して、新しく導入される「秘匿」制度は、訴訟の当事者が相手方当事者に自分の住所、氏名を知られたくない場合に用いるものです。

 

深刻なDV事案で相手方から逃げているけれども離婚訴訟をしたい、というような事案で用いることが想定されます。

 

秘匿制度の懸念点

 

秘匿制度がなかった以前からも、訴訟の相手方当事者に住所を知られたくない場合などは、別の住所(以前の住所、弁護士事務所の所在地)を使用するなど、弁護士と裁判所の裁量で、実務上柔軟に対応してきた面があります。

 

新しく秘匿制度が導入されることによって、厳格な要件・手続きが明示的に規定され、かつ、それを疎明(「証明」よりも程度の低い立証のこと)しなければならないことになり、さらには、秘匿決定等に対して相手方による不服申立ても認められることとなりますので、以前よりも使い勝手が悪くなることが大いに懸念されます。

 

以前の方法も残しつつ、新しい制度を導入するという、いわばダブルスタンダードでいくのか、新しい制度に一本化されるのか。新しい制度に一本化される場合は、少なくとも疎明の程度は緩やかに設定されるべきだと考えています。

 

秘匿制度を使用する際の注意点

 

この制度を原告側が用いる場合、提訴と同時に秘匿決定等の申立てをする必要があります。申立てがなければ相手方に自動的に送達される訴状に、秘匿したい住所等を記載してはなりません。訴状や委任状には従前の住所や弁護士事務所の所在地を記載することとなるでしょう。

 

運用が始まらないと分かりませんが、当事者の住所として弁護士事務所の所在地を代わりに記載する場合、債務名義となる判決においてもその弁護士事務所の所在地が記載されることとなるため、執行の段階でも同じ弁護士がついていないと当事者の特定において手間どる可能性があるかもしれません。